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お酒を飲もう!

44
ミヤコワスレ

 カランと軽い音を立ててドアが開き見慣れた彼女が耳元で小さく手をひらひらとさせながら顔を見せた。
「やぁいらっしゃいこんばんは」
 いつもと変わらない向かえる言葉。そしてマスターはすかさず、彼女のもう片方の手にひっそりとたたずむ淡い紫色の小さなブーケに目をやり「可愛い花束ですね。頂き物ですか」と尋ねた。
 カウンターのいつもの席にちょこんと彼女は腰をかけ、一旦テーブルに目を落とししばらく黙り込んでしまったけれどやがて顔を上げ淡く微笑んで「へへ、今日彼と別れちゃったの」と答えた。
「彼っていつも話しに出るあの彼?」
「うん、そろそろマスターにも紹介するねって言ってたのに、できなくなっちゃった。ごめんね」
 白いレースの包装紙を解きながら紫の花束をぱらぱらとテーブルに並べる。マスターは小ぶりのワイングラスに水と氷を入れ一本一本挿してゆく。
「紹介なんかどうでもいいけど、随分急だったね。つい一昨日には『これからデートなの』て軽く食前酒飲んで楽しそうに出かけてたのにね」
「うん……」
 テーブルに並べた小さな花がすっかりワイングラスに収まってマスターの後ろにある酒棚にちょこんと飾られても、彼女は視線をテーブルに落として顔を上げないまま、ぽつりぽつりと話始めた。
「彼ね、イタリアに転勤になったの。私夕べ急に聞かされてびっくりしちゃって……」
「へぇ、イタリアですか。でもそれなら別れたってわけじゃないんじゃ?遠距離恋愛ってことじゃないの?」
 うつむいたまま大きく首を横に振る彼女を見て軽々しく口を挟んだ事を後悔した。
「違うの……」
 下を向いたまま喋る彼女の言葉は一旦テーブルにぶつかり跳ね返るようにマスターの耳にくぐもった声で届く。

 転勤、それも遠い国へ。当然急に決まることなどありえない。それは何ヶ月も前に決定され彼は準備をしていたはず。それなのに彼女がその話を聞いたのが夕べ。
「そんな大事な話なのに、私は一番最後だったのよ」
「そうですか……」
 もしかしたら彼女にずっと言えないまま日々が過ぎてしまっただけなのでは、と思ったが自分の想像だけで簡単に言って、けれどもしまたそれが違っていたら、と思ってマスターは口を慎む。
 そしてその判断は正しかった。
「彼が連れて行くのは違う女の子。部長の娘さんで、随分前に紹介されてお付き合いしてたんだって。私何も知らないで二股かけられちゃってたんだ」
 ふと視線を上げて棚の花束を眺めながら
「お店で売ってたからつい買っちゃった。この花、ミヤコワスレの花言葉ね、別れっていうの。何だかタイミング良すぎて、つい……」
 マスターはどう応えるべきか少し迷った。彼女の傷ついた心にへたな慰めの言葉は逆に哀れみと受け取られないだろうか。
……これはとてもデリケートな問題だ……
 しばし店の中を重い沈黙が支配する。

 その沈黙はカウンターの隅で大人しくジンのストレートを飲んでいた青年によって破られた。
「ねぇマスター、僕が飲んでるのと同じジンをロックにしてあのリキュールを少し浮かべてあげて」
 青年の視線の先に紅紫色の液体が入ったスマートなボトルがひっそりとたたずんでいる。
「これですか?」そのボトルを手に取りマスターは首をかしげた。

ファスビンドブルーベリーリキュール

「うん、だってマスターは全然注文聞かないし彼女も何も飲んでないから今夜最初の一杯を良かったら僕に選ばせて」
 彼はうつむいて涙を流す彼女をちらりと見てさらに続ける。
「ね、騙されたと思って飲んでごらん」
 ようやく顔を上げた視線の先に透明のジンの中で紅紫の液体がとても上品にふわりと舞った。
 突然見ず知らずの人から薦められたグラスに彼女は恐る恐る口をつける。
「美味しい……」
 ビシッと凍らせたジンの重く柔らかい舌触りに爽やかな酸味が広がる。
 涙の跡は乾いてないけれど目頭からこぼれる雫が止まったのを確認して彼は言葉を続けた。
「みやこわすれの花言葉は確かに別れだけれど、もう一つ別の言葉があるのを知ってますか?」
「別の言葉?」
「えぇ、もう一つ、強い意思という言葉があります」
「強い意思……」
「えぇ。ぱっと見はとても可憐で優し気だけどこの花はその可憐さで山野に訪れた人々に元住んでいた都を忘れさせる不思議な魅力があるんですよ」
 彼女はカウンターの向こう側を見上げグラスに添えられた小さな花束をじっと見つめた。
「それとね、このリキュールはブルーベリーが原料なのだけどこうやって冷やしたジンに注ぐとあの花びらにとても似ていると思いませんか?」
「あぁ、ほんとう、同じ色だわ」
「ね?あの花の不思議な魅力と花言葉の強い意思を呑んでる気分になりませんか?きっと大丈夫。この酒を呑んだあなたはあの花と同じ強さと魅力を手に入れてむしろあなたを選ばなかった彼を見下してやりなさい」
 見知らぬ青年の不思議な説得力に誘われるがまま彼女はグラスを飲み干した。
「もっとも、僕はあなたがうちの店でその花を選ぶ前からとても魅力的な人だと思ってましたが……」
 ぼそりと呟いた彼の言葉は小さすぎて彼女にもマスターにも聞こえなかったが、突然振り向いた彼女の
「とても爽やかなお酒をありがとう。何だか元気が出てきそう」
 涙の跡の消えない笑顔に「よかった」と頷いた。

「こりゃ、常連さんにお株取られちゃったな」
 マスターは頭をかきながら二人の注文するだろう二杯目を用意している。


<2006.5.2>

45
レモンでさよなら五月病

やぁこんばんはお客さん。今日もジメジメとした困った天気でしたねぇ。おや?そちらの方は初めましてですね。後輩さんですか?
4月入社のフレッシュマンですか。いいですねぇ初々しくて、今が仕事も覚えはじめで一番面白い時期でしょう。
え?何か問題でも?まぁ座って座って、とりあえず軽くビールね。いつものバドワイザーでいいですね。
で、何が問題ですって?
……なるほど、入社してすぐは覚えることもいっぱいあって緊張もしてたし、バリバリ頑張れたけど慣れてきた今頃になってその疲れが出始めたってことですか。五月病ってやつですかね。
って、確か去年もこんな話誰かとしてたなぁ……いやこっちの話、ごめんごめん。
そうですねぇ最近ジメジメと蒸し暑かったいですから体調も崩しやすいし、気分的に沈みやすい頃ですよね。またこれから入梅することを考えると益々憂鬱……
なんて、酒呑みにお外の天気はあんまり関係ないですが。空が青けりゃ空見酒、曇って暗けりゃ雲見酒、雨が降ってりゃ恵みの雨に感謝酒、何でも理由つけて呑めりゃいいんですから。
って、お客さん方のような営業の仕事の人は雨が降ったら憂鬱ですよね……
はい?何か憂鬱を吹き飛ばすような一杯ですか?ビールじゃ無くて?ビールも結構爽やかな飲みものなんですけど……うーん、もっと爽やかに?じゃぁこんなもんかな……

リモンチェッロ・ディ・カプリ

イタリアの島で育ててる有機栽培のレモンのリキュールです。まぁ一口軽く試してみます?ほろ苦くて爽やかに甘いでしょう。
食前酒にもちょうどいいけど休みの日のまったりした午後に軽くサンドイッチつまみながら口を湿らせるのにちょうどいい感じの酒ですよ。
疲れた体と脳みそにキュッと新鮮な刺激を与えてくれて、軽く酔うことでリラックス、てもんでしょうか。
でね、ただ氷入れてロックで飲むのもいいけど一番はやっぱり炭酸で割るの。ここ数年流行ってる炭酸ミネラルウォーターってやつですね。ペリエとかウリベート、ヴァルスかな?
でも今日はまたちょっと違うカクテルに……

「リモンチェッロ・パナシェ」

ま、要するにこのレモンリキュールのビール割りです。パナシェはフランス語で「交ぜる」とか「色取り取りの」みたいな意味でしょうかね。
このレモンの甘酸っぱさがビールの苦味ととてもよく合うんですよ。
どうです?まさに「爽やかー」な喉ごしでしょう?
そしてね、このジメジメする季節だけど、実は五月ってレモンの花の季節なんですよ。可愛い紫色の花が咲くんです。それが冬の初めに実をつけるんです。だから今はレモンの始まりの季節ってわけですね。
ちなみに花言葉は「熱意」どうです?この爽やかなカクテルを呑んでるとジメジメもふっとんで就職した頃の熱意だって戻ってきちゃうかもしれませんよ。
そうそう、他にもね、レモンは飲みものや果実として以外にも整腸薬としての効果もあるので、この時期にはうってつけの果物ですよ。
お客さんの大好きなビールで割ってよし。
最近流行の炭酸ミネラルウォーターで彼女とお洒落な休日を楽しむのもよし。
嫌なことがあった時は冷凍庫でキーンと冷やしてそのままがぶがぶ呑むもよし。何せ整腸効果のある果物の酒ですからね。って、これは冗談。酒は百薬の長ですけどがぶ呑みしちゃ逆効果ってやつですね。
はいはい、おかわりね。
今夜もジメジメ蒸し暑い夜だけど楽しく爽やかにレモンの香りの酒で乗り切りましょう。


<2006.5.16>

46
移り気は元気色


やぁお客さんいらっしゃい。あれまぇ随分濡れちゃって。ちょっと待っててよ、タオルあげるからとりあえずそこに座って。
あぁイスが濡れるなんて気にしなくていいですよ。どうせこの梅雨が過ぎたら布張替えしようと思ってたんだから。
それにしてもよく降るねぇ。五月に続いた晴天がウソみたいだ。
さて、今夜は何呑みますか?いつも……の……あれ、まだ拭いてたの。大丈夫?風邪ひかないようにしないとね。
……もしかして……?うん、いいよゆっくり拭いてください。どうせこの店薄暗いしね。化粧の一つや二つ剥げたって誰も気にしやしませんよ。
「誰も」って、他にお客なんかいないじゃないか?やだなぁまだ時間が早いせいですよ。うちは深夜からが本番ですからね。
さて、可愛い顔が現れたところで、何を差し上げましょうかね。
とびきり元気になれるカクテル?よし、アタシに任せときな。
「ピーチツリークーラー」
可愛い春色で梅雨の灰色空を吹き飛ばしましょう。
はい?今日ついさっきですか?
いえいえ、お客さんのような可愛い女性の話なら例え愚痴でも全然迷惑じゃないですよ。むしろそれを聞くのがアタシの仕事。遠慮なく話してください。
そう、彼と別れちゃったの。
って、そういえば二ヶ月ほど前にもそんな話してなかった?違う男性?まぁそんな短い間で新しい彼氏ができてまた別れちゃったの。慌しいねぇ。
うんうん、お嬢さんはちゃんとマジメにお付き合いしてたんですね。
でも?あぁ成る程ね。職場での人間関係を考えると嫌な仕事でもツッケンドンな顔できないもんね。なのに?八方美人って?
そりゃひどいねぇ。
最後に言われたのが「キミは紫陽花の花のような人」だって?そりゃひどい。ほんとにひどい。
確かに紫陽花の花言葉は「移り気」とかってあんまりいいイメージのものじゃないけど、紫陽花を上手に育てるのって結構大変なんですよ。
出したい色を上手に出す為に土を工夫してアルカリ性とか酸性とか。まぁ花の色とか意識しなけりゃ紫陽花自体は難しい事は無いらしいですけどね。
えぇアパートの大家さんがちょっと凝ってましてね。この季節になるとよく話を聞かされるんですよ。
まぁ一番よく聞かされるのは「きれいな色を出したかったら普通に育てるだけじゃだめ、いろいろ工夫して育ててあげるのよ」ってね。
お嬢さんが会社で誰にも柔らかくて優しいのは人間関係でトゲが立つのが嫌なんだよね。そんな風にやんわりと職場の人とお付き合いできるようになるまでにいろいろ辛い思いや悲しかった事飲み込んで頑張ってきたんだろうに、そういう部分も見ないで「八方美人」だなんてひどいよね。
よし、ここはイッパツ景気付けにアタシが特別なカクテルご馳走しちゃおう。
ちょっと待っててね……

「レインボー」

さぁどうだ!きれいでしょう。その名の通り七色のカクテルですよ。グレナデンシロップにシャルトリューズのイエローにグリーンに……まぁとにかく七色のリキュールやシロップを比重の重い順に注いで行って七つの層を作るんですよ。
これもね、なかなか難しいんですよ。ゆっくりそっと少しずつ注がないと色が混ざっちゃうし、時間かかるし。
でも影の努力あってこういうキレイなカクテルを作れるんです。って、腕自慢じゃなくてね、お嬢さんも同じってこと。辛いこと苦しいこと胸に抱えて乗り越えて今の誰にでも平等に優しいお嬢さんができたんだ。そんなステキなアナタを「八方美人」だなんて振るような男、こっちから棄ててやんなさい。
そうそう、いろいろと良いイメージの無い花言葉を持つ紫陽花だけど、他に「辛抱強い愛情」とか「元気な女性」て言葉を当てはめる国もあるんですよ。彼氏、博識じゃ無かったんですねぇ。
あ、そのカクテル……と、遅かったか……
えぇ、色はキレイだけど味の保障はできないんですよ。何せカクテルの原料を薄めたりしないでそのまま原液同士で重ねてるわけですから。
混ぜたりしたらそりゃ……
えぇごめんなさい、作るのも大変だけどこれ、目で見て楽しむカクテルなんです。
まぁそう怒らないで。きれいに七色に輝くグラスを紫陽花に見立てて楽しみながら、もっと飲みやすいさっぱりしたカクテルご馳走しなおしますから。


<2006.6.15>

47
ヒルガオ


「今年も暑くなるわねぇ」
 真っ白い綿のような雲が広がり始めた青い空を仰ぎながら美佐子は首筋に流れる汗を拭いた。
「そろそろ冷たいものでも呑まないか?」
 垣根越しに啓二が顔を出す。
「歩いてるだけでも汗が吹き出るっていうのに、畑仕事本当にご苦労さん」
 缶ビールの入った袋を振り回さないように掲げる。
「丁度喉が渇いてたところだわ。ちょっと待ってね昨日収穫したニガウリを炊いたのが在るの」
 小さな家庭菜園の庭を抜け縁側から家に入り中身の詰まったタッパを持って戻ってくる。
「ね、川の方行かない?」
 どうせなら外の涼しい木陰で呑もうと垣根の低くなった所からよいしょと乗り越えた。
 啓二が二十七、美佐子が二十五。家が隣同士の幼馴染。近所に子供が少なかったせいか、兄妹のように育った。
 公道に出る家の前の細い道を少し歩き左右を田んぼと畑に挟まれた公道に出てそれを横断し細い農道を下ると陽の光りを浴びて穏やかに流れる川に辿りつく。ほんの数歩で渡りきれる橋を超えて山沿いの涼しい影になった林道の脇に二人並んで腰を下ろす。
 ぷしっと飲み口から溢れる泡の音が啓二の爪先ではじける。
「ほら」
 渡された缶を躊躇いもせず受け取る。
 通り過ぎるそよ風。
「街とはエラい違いだわ」
 ごくごくと喉を鳴らしながら美佐子はビールを流し込んでゆく。
「お前さ、こっち帰ってきて仕事も何もしないでいるのが所在無いのはわかるけどこの時期に野良仕事で根つめてるとぶっ倒れるぞ」
 隣であまり酒に強くない啓二がちびちびと缶の飲み口を舐めながら苦笑いする。
「だってさ、ただでさえご近所やらに肩身狭いんだから少しは働き者っぽく振舞わんと」
 同じ苦笑いをしながらザルと呼ばれた美佐子は二本目の缶を今度は自分で開けた。
 高校を出て就職もせずに街でアルバイトを転々としているだけで十分頭の堅い親戚筋からは良く思われていなかったのにそのまま街で知り合った人と二十歳で結婚し先日離婚して帰ってきてからはなおさらだった。
「ま、子供が居ないから離婚で揉めなかっただけマシなんだけどね」
 帰ってきた当初離婚話を笑い飛ばしている美佐子の横顔を啓二は口先で頷きながらただ眺めていた。
 ゆっくりと時間をかけて、美佐子の二本目と啓二の一本目が申し合わせたように空く。美佐子が二人の間に置かれたビニール袋を逆さに振りながら
「小さい缶って呑んだ気にならないよねぇ」と笑うのを受けて啓示が立ち上がった。
「おまえさ、今日何の日か覚えてないの?」
 田舎に帰ってから周りの噂を跳ね除けるように家仕事に精を出していた美佐子が当然この日を彼女が忘れているだろうことは想像がついていた。
「え?」
 怪訝な顔をする美佐子を尻目に靴を脱ぎ川に降りる。膝まで水に浸かりながら狭い川の真ん中あたりに石を組んで作った小山があった。その小山を叮嚀に崩しながら淡いピンクの瓶を取り出した。
「何それ?」
「ワインだよ。ちょっと普通のワインと違うんだけど」
 コルクを抜くと甘い香りが柔らかく漂う。
「呑んべのお前には物足りないかもしれないけど」
 笑顔で瓶を差し出しそのままラッパのみでいいよと促す。美佐子も遠慮はしない。
「甘ぁい」
 香りから甘さは想像できていた。
「でも変にクドい甘さじゃなくて上品で美味しい」
「アイスワインって種類だよ」啓二が説明する。
 葡萄を秋に収穫しないで木に実がついたまま冬を迎えさせ冷たい雪をまとわせ凍ったところで収穫する。余分な水分が飛び果実の甘さが凝縮するのだ、と。
「お前も今いろいろ親戚から煩く言われて辛いだろうけど、頑張ればこんなワインみたいに美味い人生がまた待ってるから」と言おうとしたがそのセリフを頭の中で考えるうちに照れくさくなってやめてしまった。
 言葉の代わりに水辺に咲いていたヒルガオを摘んで
「誕生日だろ。今日」
 美佐子の胸元に投げた。
「えーそうだっけ?」
「やっぱり忘れてやがったな。自分の誕生日」
 ヒルガオを掌に乗せて眺めていると急に照れくさくなってきた。自分さえ忘れていた誕生日をちゃんと祝ってくれた啓二に「ありがとう」と言おうとして口ごもる。そんな美佐子に「どうした?」啓二が顔を覗き込む。
「あのさ」
「うん?」
「このワインってこの花と同じ色だと思わない?」
「そういやそうだな」
「啓二、ヒルガオの花言葉って知ってる?」
「いや、知らないけど何か意味があるのか?」
「うーん、ごめん私も忘れちゃった」
 顔を見合わせまた二人で笑う。
――ホントは知ってるのだけど――
 美佐子は心の中でクスリと笑い『何となく今は言えない』笑って誤魔化す。
 ヒルガオの花言葉は『絆』
 長い間かけて築いた幼馴染の絆に小さな変化が始まった。


<2006.7.16>