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■■ 		お酒を飲もう！ ■■
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１
■■■ とりあえずエビスでも ■■■

やぁいらっしゃい。お客さん外は雨ですか？
この季節の雨は冷たくて辛いですねぇ。さ、まずは何から呑きましょう？
とりあえずビール？トリビーですね。や、「レモンハート」って漫画のパクリですよ「トリビー」
ビールは何でいきましょう？エビスで？勿論ございますとも。
いやぁ実はこの店今日開店したばっかりでね。
お客さん、記念すべき第１号ですよ。ま、これも何かのご縁ってことで、つまみ一皿サービスさせてくださいね。今巻いたばっかりの奴なんですがね。

生春巻き。５本。

全部味が違いますから。よかったら感想聞かせてくださいよ。
タレですか？どれもタレ入ってますからそのままぱくっといっちゃってください。
あぁそれね、さっと茹でたもやしと豚肉を梅肉ソースで和えてレタスでくるんで巻いたんですよ。
キャベツの千切りでもいいですがね、その場合は生春巻きの皮の上にキャベツ敷いてその上に豚肉ともやしを置くんですよ。のり巻きの要領ですかね。
エスニックブームのおかげってんですか？生春巻きの皮もそこらへんのスーパーで手に入りますから便利になったもんですよね。
あぁそいつは茹でたエビと千切り胡瓜を皮の上に敷いて胡麻タレを乗せて巻いたんですよ。
タレをスプーンの背中ですっと具の上に広げてやるのがコツですかね。
はいはい、エビスもう一本ね。ありがとうございます。
こっちはマグロのヅケを作って、や、簡単ですよ。マグロの刺身を醤油に漬けるだけですから。それをシソの千切りとレタスと一緒に巻くんですよ。
そっちはチリトマトソースで煮込んだ鶏肉をね。勿論チリトマトの鶏肉スープで食べても美味いんですが、それじゃ酒の肴にならないでしょ？
最後のが豚の角煮で。しっかりと柔らかく煮込んでから一晩置いとくと味が染み込むんですわ。こいつは胡瓜の千切りと葱の白髪切りが合いますね。やっぱりのり巻きの要領で皮の上に敷いてちょこっとカラシ塗って巻くんですよ。
えぇ、勿論どれも普通の春巻きの皮で巻いて揚げても美味いんですがね、酒の肴にするにはやっぱり油分は控えないとね。
生春巻きったらタレは別に作って付けて食べるもんなんでしょうが、それじゃ皿がタレの数だけ増えますし、洗いモンもね。いやぁ不精なだけなんですがね。
エビスおかわりですね。お客さんなかなか呑けますねぇ。
生春巻き、ビールと合うですか？そりゃぁよかった。
全部アタシの創作でね。や、多分料理研究してるプロの人がとっくに考えてどっかの雑誌で発表してるかもしれませんがね。
でもお客さんが褒めてくれたおかげで、自信持って値段がつけられますよ。
飲み屋は酒と肴が揃って初めて飲み屋ってもんですからねぇ。
おやもうお帰りで？。
いやぁ客が少ないのは最初から覚悟の上ですから。こんな路地裏の小さな店ですからね。
えっと……エビス３本で１５００円で。
安いですか？お客さんさてはいつも可愛い女の子のいる店に行ってるんでしょ？そりゃそういう店は高いのが当然ってヤツですよ。
うちは席料もないですから。酒と肴の代金だけで結構ですよ。
ビールに合う肴を作って待ってますのでよかったらまたいらしてください。
えぇ、酒はいつでもいろんな種類揃えてますよ。
勿論カクテルでも何でも。
よかったら今度は彼女と一緒に来てみてください。
え？奥さんも子供もいらっしゃる？
じゃぁぜひ奥様の為にシェーカー振らせてくださいよ。
子供さんの為にソフトドリンクも各種揃えていますから。
雨、止んだみたいですねぇ。
それでは今日はこの辺で……


＜2003.12.1＞


２
■■■ ボイラーメーカー ■■■

やぁお客さん、今日もまた寒いですね。
そろそろクリスマスだ師走だと慌しい時期ですがどんな按配で？
そんなことより酒だって？はいはい。ひとつ温かいのでもいれましょうか？
え？とにかく強い酒だって？また今日はえらく物騒だねぇ。
ちょっと待っておくんなさい……いえ、ワケなんか聞きゃしませんよ。そりゃ呑みたい時もありますよねぇ。これから正月だってぇのに戦争やってる国もあるし不景気は相変わらずだしゲレンデじゃ雪が少ないし……おっと最後のは理由にもなりゃしませんか？
はいはい、今お出ししますから。なぁに夜は長いんだ。呑むと決めたら焦らないで出てくる酒を待つ間の時間も楽しまなきゃ。
一言に強い酒ったって、いろいろありますがね。
ロンリコにアブサンに。そうそう。アブサンったら太宰治の小説でも有名なヤツですよ。
「呑み残した一杯のアブサン」ってね。
スピリタスなんてアルコール度96％ですよ。
でもちょいと待ってくださいよ。単に強い酒を呑るんじゃなくて今日は呑り方に拘ってみませんか？
バーボンなんですがね。こいつ呑る時はイイやつなんか使っちゃダメだ。ま、最近はバーボンも随分安くなっちまいましたが。

「ＪＩＭ　ＢＥＡＭ」

ま、こいつでいきましょうか。これをストレートのグラスに注いで…
え？そんなありきたりの酒？ちっちっ、お客さん。これからですよ。これから。

「バドワイザー」

こいつをね、チェイサーにするんですよ。
チェイサーったらチェイサーですよ。ストレートの酒の後に口直しに呑む水ですよ。その水の代りにバドワイザー。
ハイネッケンがいいって言う人もいればギネスがいいって人もいますが、まぁ最初はこんなもんでしょう。
意外とこの呑り方のファンは多くてですね。ボイラー・メイカーと呼ばれるカクテルの一種ですよ。
本来はタンブラーにバーボンを注いでビールで割るんですがね、ちょっとしたホテルなんかじゃこうやってチェイサーのグラスに別に分けて出したりするんです。
ロバート･レッドフォード監督の「リバー・ランズ・スルー・イット」って映画で主人公の兄さんがこの呑み方やってて、ちょっと有名になったカクテルですがね、まぁよかったら映画の方も見てやってください。
……目が回りそうだ？……
そりゃそんなイッキにあおっちゃ回りますよ。何かつまむもん出しますか？
クラッカーにチーズでも挟みます？カマンベールをね、薄くスライスして塩気の薄いクラッカーでぎゅっと挟んでぺしゃんこにして食べるんです。あんまり上品な食べ方じゃないですけどこれがなかなか、ね。
ふんふん……クリスマス前なのにねぇ。そりゃぁまた……
え？予約しちゃってたの？もうキャンセルしちゃいなさいよ。あんまりギリギリになってキャンセルしてるとキャンセル料高くなっちゃいますよ。
それでヨリが戻ったらどうするって？
そりゃぁ決まってますよ。うちで彼女と仲直りの一杯でしょう？
ちょいと気の利いたシャンペン開けてクレソンの生ハム巻き、チーズとキャビアでカナッペ。
え？やだなぁ……商売上手ですかね。


＜2003.12.15＞


３
■■■ ペッシェビーノと椎茸で ■■■

やぁ今晩は。いよいよ新年ですね。ちょっと昔は年明けそうそうなんて皆さん家に篭っちゃってて飲み屋なんてにゃ寂しいかぎりだったもんですが最近はそうでもないもんですねぇ。店主としちゃ嬉しい限りで。
さぁ今日は何でいきましょう。ワインでも？新年っぽいめでたそうなの？そうですねぇ……

「ペッシェビーノ」

赤・白・ロゼとありますが……とりあえず赤から？はいはいかしこまりました。
面白いでしょう？この魚の形した瓶、結構人気あるんですよ。そこらのデパートでイタリアンフェアなんてやる時は必ず並ぶワインですよ。
赤は軽くて呑み口もいいので……つまみも軽くいきますか？
これね、椎茸の軸を薄切りにしてさっと炙ったんですよ。わさび醤油でどうぞ。
椎茸の軸ったら皆さん捨てちゃいますがこれがなかなかイけるんですよ。
細く裂いて掻揚げのネタにしたり、さっと炒めてオムレツの具にしたり。
酒のつまみに油もんはあんまり良くないんでうちじゃ掻揚げはしませんが。
そうそう、安い時にたくさん買って細く切った奴を味醂と醤油で甘辛く煮つめて３〜４日は冷蔵庫で持ちますしね。ラーメンなんかの具にいいですね。
あぁ勿論椎茸の傘もちゃんとありますよ。
「椎茸とエビ・イカのマリネ」
細く切って茹でた椎茸と同じようにさっと茹でたエビとイカ、や、冷凍のやつで十分ですよ。こいつらを市販のマリネ液に浸けとくんです。
最近はマリネ液もスーパーで瓶入りがありますから便利ですよね。見つからなきゃイタリアンドレッシングを代用していいですし。
皿に盛って最後にオリーブと粒胡椒をぱらぱらっとね。
エビ・イカの他にも玉葱の千切りや茹でタコ使っても美味いですね。
簡単ですから休みの日にでも作ってみては？きっと奥様もびっくりなさいますよ。
え？まだ独身？こりゃ失礼を……や、休日を手作りの肴とおしゃれなワインでってのも優雅じゃないですか。
気の合う仲間同士で呑るのもいいし。何てったって安いですからね、椎茸。
えぇ、この瓶、たまに持って帰って花なんか挿してる方もいらっしゃいますよ。
大ぶりのガーベラや向日葵なんかが似合いそうで。今の季節なら温室のチューリップってとこでしょうか？
そんなの横目で見ながらさっぱりしたイタリアのワイン、つまみは日本の椎茸で。
いやね、安かったんですよ椎茸。
一本空いちゃいましたね。呑みやすいからぐんぐんいけるでしょう。
え？白も呑きます？ありがとうございます。
白はさっぱりとした辛口。呑みやすいでしょう？
今夜は珍しく酒がすすみますね。
……はぁ……弟さんが先に嫁さん貰っちゃって……できちゃった婚ですか、やりますねぇ弟さん。
……なるほど、実家に帰っても遊びに来てる甥ごさんにお年玉と遅いクリスマスプレゼントねだられるだけで……
……ご両親からは自分はまだかと……なるほどなるほど。
なぁに今のご時世急いで所帯持つこともありゃしませんよ。生涯独身でも何も困ることありゃしませんし。
のんびり呑ってりゃいずれ巡りあいもあるでしょうしね。
今夜だってほら、こんなナイスバディーのボトルと巡り合ったじゃないですか。呑んで良し、飾ってよし。
よし！ロゼも開けちゃいましょう！この一本はアタシからのクリスマスプレゼントですよ。
え？やだなぁアタシが同情なんかするような人間に見えますか？
……はぁ……見える……
そりゃ失礼……


＜2003.12.28＞

４
■■■ いつも傍らに焼酎を ■■■

やぁお客さんいらっしゃい。
珍しいですねぇお一人ですか？いえいえ、女性の一人客大歓迎ですよ。最近じゃ珍しくもないですしね。
昔ですか？そうですねぇ…アタシの若い頃ったら一人で飲み屋に入る女性はそりゃぁ珍しかったですよ。スナックやクラブの仕事帰りのお嬢さん達は基本的にお客さんと連れ立ってましたし、ましてやお客さんみたいに若いお嬢さんのお一人なんてとてもとても。
ところでお呑みになるのはいつものでよろしいんで？
はい？違うのですか？お勧め？…うーん…あまりクセの強いのは苦手でしたよね。炭酸も苦手…ビールとウィスキーはやめときましょうか。ワインか日本酒か…
え？この瓶ですか？こりゃぁ焼酎ですよ…呑ってみますか？大丈夫、全然クセのない焼酎ですので。そうですね、軽くお湯割でもいたしましょうか。

「白水」

米の焼酎になるんですがね、これが面白いんですよ。こしひかりにあきたこまち、ひとめぼれ、色んな米で作ってらっしゃる。
ね？全然臭くないしするっといけちゃうでしょう？
これのいい所ったら肴を選ばないとこもいいんですよね。
肉でも魚でも野菜でも、味噌でもチーズでも醤油でも。試しに軽〜くつくってみますか？
「茸の味噌炒め」
いやね、先日木曽の方に遊びに行ったら道の駅で地茸の水煮があったんで糀味噌で炒めてみたんですよ。糀の味噌は炒めると香がふくよかで絶品でしょう。具は茸に限らずに、肉でも魚でも何でもこいのもんですよ。
コツは具を先に軽く下茹でするか炒めるかして火を通して、味噌を入れたらあまり炒めすぎないことですね。炒めすぎると味噌が焦げ臭くなっちまう。
洋風の肴もいってみます？生物がないので刺身とかできないもんで……すみませんねぇ……
そうそう、焼酎って本来お湯割で呑むのが一番なんですよ。
泡盛にしてもいいちこにしても日本の南の方でしょう？熱い地域で温かい物を呑んで体を、特に胃をいたわるんです。
ほら、夏にバテた頃温かいうどんやラーメン食べると調子が良くなるでしょう？あんな感じですかね？
さぁ次の肴、どうでしょう。
「素焼きトマトのチーズ乗せ」
厚い輪切りトマトに粉チーズ乗せてフライパンで焼いただけなんですがね。
トマトは一度軽く両面焼くんですよ。最後に粉チーズ乗せて焼きましたけど、粉チーズじゃなくてスライスしたゴーダチーズやカマンベール乗せて蓋をして蒸し焼きしても面白いかもしれませんね。
…え？…日本酒に？試したことはないですが案外いけるかもしれませんねぇ。うん、今度やってみますよ。
日本酒、何かお呑みになりたいものでも？
あぁ、彼氏、福井に転勤ですか。え？もう行っちゃってる？そりゃぁ寂しいですね。遠距離恋愛ってやつですか。
そういえば彼氏、日本酒お好きでしたよね。
福井ならいい酒がいっぱいあるから、きっと上手くやってきますよ。
でもそれじゃ貴女が寂しいですねぇ。
うーん…あっちは海老も魚もいいのありますから、肴には困りませんよ。米も美味いし。
…え？…
あぁそれはいいですね！毎日日本酒呑んですっかり日本酒漬けになったころこの焼酎持って訪ねたら、そりゃぁ新鮮ですよ！面白いですよ！
いいですよ、アタシでよけりゃ肴でも何でも教えてあげます。えぇ勿論焼酎の呑り方も。
しんしんと降る雪の中さっぱりと温かい烏龍茶で割った焼酎に、軽く手を加えた肴。いいですねぇ。
他にも焼酎の牛乳割なんてありますが……え？それはいい？そうですか？…案外イけるんですがねぇ…
それにしても北で呑む南の酒、ですか。うーん、いいですねぇ、いいですよ！
そういえばトマトって原産はペルーなんですよね。
雨で潤う国の、北で南の酒を呑み、肴は乾いた国の野菜。これに凍った国の何かがあればすごいですねぇ。
そうそう、キャビア！これですよこれ！「白水」の肴には素晴らしく合いますよ！
…はい？…あぁそうですねぇキャビア、気楽に食べるにはちょいお高すぎますね…いやはや…


＜2004.1.15＞

５
■■■ 恋しきは人肌の ■■■

おやお客さんいらっしゃい。
今夜はやけにお早いですねぇ、久々の残業なしですか？
会社の設立パーティー？そりゃおめでたいですね。はぁ？疲れた？まぁ課長にもなれば上の人と下の人がいっしょくたに呑むような席は気疲れするんでしょうねぇ。
で？酒と肴はどんなのがあったんで？
ホテルの立食パーティーですか、和洋中取り混ぜで？そりゃぁいいなぁ。会社も大盤振る舞いでしたねぇ。いいモンたくさん呑み食いできたんじゃないです？
えぇ？それよりうちの燗が恋しかった？へへっ照れますねぇ、光栄ですよ。
じゃ早速いつもの呑きますか？

「一の蔵　無鑑査」

宮城の酒なんですよね。さっぱり呑みやすく嫌味がない。燗でも冷でも、大抵の肴に合う、いい酒ですよ。何てったって値段が優しくてね。
さて、燗をつける時は十分に沸いた湯が暴れないように弱火にしてからゆっくり徳利を入れる。
そん時にこいつ、桧の棒を一本挿してやると何ともいい香のまろやかな風味が増すんですよ。
徳利の表面に小さな泡が一つ浮いたらちょうど人肌。これ以上つけちまうと熱燗になっちまう。急いで取りだしさぁどうぞ。
猪口はね、焼き物でも上薬を使ってない素朴なやつがいいそうですよ。何でも陶器に含まれる磁気が二日酔いを防止してくれるんだそうで。まぁ度を超えて呑んじまったら意味ないですが。
何か召し上がります？あぁパーティーで堪能しましたか。でも何もつままずに酒だけ呑ってると胃に優しくないし、口寂しくないです？
よかったらこんなもんでもどうぞ？
えぇ梅干です。こいつがね、美味いんですよ。ほら、口が歪んじゃうくらい酸っぱいでしょう。
最近は蜂蜜漬けとか全然酸っぱくない甘いくらいのヤツが高級品なんて出てますけど、私はやっぱり田舎のばあさんが作ってくれたような酸っぱいのが好きでねぇ。
大きめの梅をじっくり漬けてぶにゃぶにゃの果肉にしたたる汁。もう最高ですね。
何年か前ドライブで行った先で売ってるの見つけましてね、買ってその場で食べたらこの味でしょう。もう懐かしいやら美味いやらで、それ以来この梅干が切れるとまたそこまで買いに行くんですよ。片道二時間くらいかなぁ。
え？場所ですか？ふふっそれは企業秘密ですよ。
これであと、烏賊の塩辛の美味いやつとかあれば言うことないですねぇ。残念、今日は切らしちまってるんですよ。美味い烏賊の季節だもんで人気者でね、たくさん買っててもすぐ売り切れちまう。たくさんって言っても頑固な職人さんの店だもんでそんなに買えもしないんですがね。
梅干だけで十分？そりゃありがとうございます。
そんなに気に入っていただけたんならこいつ売ってる場所のヒントだけ差し上げましょうかねぇ。
「紅葉で有名な渓谷」ですよ。
そんな場所日本中に大量に散らばってる？こりゃヒントになりませんでしたかね、失礼。
はい？燗をもう一丁？ありがとうございます。え？梅干も？
こりゃうちの人気者がまた増えましたかね。


＜2004.1.31＞

６
■■■ 春は酒と野の肴 ■■■

やぁお客さんこんばんは。
暦の上では春だってのに寒い日が続きますねぇ。
でももう三月。そのうち一斉に桜が咲き始めて入学式だの卒業式だの新入社員だの若いエネルギーで街も活気付くんでしょうねぇ。
え？言ってること、年より臭いですか？はは、まぁいいじゃないですか。
さて、今夜は何でいきましょう？いつもと同じジンでも？
春ですか？うーん、春の匂いのする酒ねぇ。うーん、じゃぁ、こんなモンいかがですか？

「ズブロッカ」

ポーランドのウォッカですよ。ウォッカって言うとキツそうに聞こえますがこいつはアルコールも40度とウィスキー並で飲みやすい柔らかい酒ですよ。
中に入ってる一本の草が「ズブラ」っていう牛の餌になる草でね「ズブロッカ草」ってんですよ。ほら、このラベルの牛がそいつ、ズブラですよ。
栓を開けるとふんわりヨモギの香がしてくるでしょう。
さて、呑り方は、冷凍庫でキーンと冷してショットグラスで香を楽しみながら、が一番なんですがね、きついようなら氷でも入れますよ？
どうですか？呑けるでしょう？お客さんもともとジン好きですもんね。こういうのも結構呑けるんじゃないかなと思ったんですよ。
じゃぁ今夜は春のお楽しみでいきましょうか。
「フキミソ」
いえね、昔旅行先で友達になった農家の人がこの季節になると作って送ってくれるんですよ。
フキノトウは雪が溶けてお日様にあたっちまったものはもういけないんですね。雪の中でちょこんと先っぽを出してるか出してないかのやつを摘むんですよ。陽にあたって育っちまったらもう苦くてね。
そいつをささっと切って袴取って炒めて甘辛い味噌と絡めるんです。どうです？これこそ春の肴でしょう。
それから、
「タラの芽」のおひたし、
「菜のはな」の辛し和え。いかがです？
ちょっと早い気もしますが、もうスーパーに並んでるんですよねぇ。
こういうのは器も選んで、っと。草模様の小鉢に、そうだ、箸も凝ってみましょう。
これ、去年山歩きした時拾った小枝なんですがね、さっと表面削って長さ揃えたもんなんですよ。軽い歪みぐあいが何ともいい感じでしょう？
使いにくいですか？こりゃ失礼。じゃぁ箸は普通に桧の割り箸で。

ウォッカって言うと肴はスモークサーモンとかパテとかソーセージとか、洋風っぽいものが一般的みたいですけど、こういう日本のお惣菜もなかなか悪くないでしょう。
最近じゃ赤ワインのフルボディに脂ののった鰤の照り焼きや鮪の刺身なんてつまむ人もいますしね。
酒と肴の定番も徐々に枠が広がってるようで、何とも楽しいではないですか。

はい？ズブロッカ、桜の花なんて浮かべたら風流だ？お客さんいいこと言いますね、ぜひ桜が咲いたらやってみようかな？
草の風味が消えない程度に一滴、カンパリでも垂らして桜の花びら。春限定のカクテルですね。
でも問題は、桜って折ったり摘んだりしちゃイケないもんだから、落ちてるの拾って使うしかないんですよね。
公園や通りの桜は排気ガスとか踏まれて汚れちゃってるから、人があまり来ない場所でひっそり咲いてる桜を探さなきゃですね。
どうです？今度桜前線がやってきたら一緒にズブロッカ抱えてひとつ桜探しの山歩きでも。


＜2004.2.29＞